イカ、タコ、エビ、カニ、サンゴ、イソギンチャクやウミウシなどの水産無脊椎動物の研究を推進し、研究者を応援する財団

公益財団法人 水産無脊椎動物研究所

財団についてうみうしくらぶとは
  • トップ
  • イベント
  • 研究助成
  • 出版物
  • 水産無脊椎動物図鑑
  • ご支援のお願い
トップイベント第22回「磯の生物勉強会」(大槌)報告

第22回「磯の生物勉強会」(大槌)報告

2016年度の「磯の生物勉強会」は、2016年7月14日から16日にかけて、岩手県大槌にある東京大学大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センターで行いました。

14時に釜石駅に集合し、そこからタクシーに分乗してセンターに向かいましたが、雨がひどく、予定していた磯採集場所の下見は断念せざるを得ませんでした。
代わりに、今回の訪問を快く受け入れてくださった広瀬雅人先生が、センターの概要や、先生の主な研究分野であるコケムシについてお話してくださいました。

建物は東日本大震災の折に津波で流され、現在も3階しか使うことができません。東京大学大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センターは、他の臨海実験場とは異なり、共同利用研究施設なので、限られたスペースを多くの研究者が共同で使用しているそうです。センターから見える蓬莱島も、生えている木のてっぺん近くまで津波に沈んだということですが、こちらは奇跡的に木が死なず、今も元気な姿を見せてくれています。

センターから見る蓬莱島

傷跡痛々しいセンター内部

広瀬先生はセンター唯一の分類学者で、付着生物全体を調べるため、付着板と呼ばれる塩ビの板を海中に沈めて、そこに付いた生物を観察していらっしゃいます。付着板を沈めて1ヶ月もすれば付着生物が付いてきますが、動く板と動かない板で付着物が異なったり、量が違ったりという変化があるそうです。
参加者の多くは、やはり震災による海生生物への影響に興味があったようで、震災にまつわる質問がいくつかありました。しかし広瀬先生のお話では、「水深90mほど潜ったところでは、古い経年のコケムシが見つかっていて、震災の影響をほとんど感じない。種によって、流されてなかなか戻らなかったり、そのまま残っていたり、震災前より繁殖しているものもあるが、その後の復興工事の方が、生物にとっては影響が大きいと感じている。」とのお答えでした。
例えば、先生は松島湾のカキの養殖も観察されていますが、震災直後は、震災前年の夏の水温の高さで弱っていたカキ・その上に大繁殖したコケムシが、泥をかぶってもろとも死んでしまったそうです。今はカキは元気になってきていて、その分コケムシの繁殖は減っていますが、泥の付着は相変わらず確認されており、復興工事の影響ではないかと考えているそうです。

コブコケムシの標本(広瀬先生作成)

日本国内はもとより、アジア圏で見てもコケムシの研究者は多くありません。なぜそのような研究に携わることになったのかを伺うと、話は先生が高校生の頃、学校の隣にある池で見つけた奇妙な物体が何なのかわからず、淡水の生き物であれば琵琶湖の研究所に聞けばよかろうと考えて問い合わせたところ、オオマリコケムシであると教えられたそうです。顕微鏡で見ると、その個体はとても美しく、淡水のコケムシの研究がしたくなり筑波大に進学されたとのことでした。
後進の育成については、コケムシのクリアファイルを作って小学生に配ったり、タイに出張してワークショップで学生たちに採取や調査の仕方を教えたり、コケムシ写真集を作ったり、といった活動をされていますが、「今はウェブの重要性をとても感じる。高校生や中学生がウェブ経由で質問してきたり、標本を送ってきたりするので、同定して返答したりしている。」とのお話もありました。

みんなで観察!質問!

常ににこやかに話してくださる先生のコケムシ愛に魅了されてか、時間が経つのも忘れてしまった(つまりは長居してしまった…)私たちでした。


2日目は、9時30分にセンター前に集合し、大槌町の見学に向かいました。
震災当時津波に飲まれ、波が引いたあと家の上に船が乗っている姿でマスメディアに紹介された建物(民宿だったそうです!)を実際に見学しました。今は再開発が進む赤浜にあって、倉庫として臨時に使用されているそうです。

次に、大槌町役場へ向かいました。無残に破壊された建物前には、鎮魂の社が建てられてあり、みなでめいめいに線香を手向けたりもしました。

それから山道を上って、震災時には避難場所として使われた城山公園へ行き、高台から赤浜の全景を眺めました。穏やかな震災前の写真の後方では、轟々とした重機の音と共に再開発が進められています。

最後に、津波で流されてしまった山田線のあった場所へ案内してもらいましたが、そこでは鬱蒼と草花が茂っていて、ものすごい力でねじ切られたと思しき橋げたの名残を見なければ、そこに線路があったとは思えないような光景でした。

ここに線路があったのです

それぞれに感慨深いものを覚えながら、福幸(ふっこう)きらり商店街へ向かい、午前中のプログラムを終えました。

午後は、朝方にパラついていた雨は上がり、晴れ間も見えてきたこともあって、全員張り切って準備を整えます。

そして広瀬先生にご案内いただき海に向かいましたが…。
そこで待っていたのは、過酷なガレ場でした。古い防潮堤は折れて中の金属が剥き出しになり、採水機も傾いていました。それでももちろん私たちは海に入り、隙間を覗いたり石をひっくり返したりと磯採集に励みましたが、なかなか生物がいる気配がありません。少し足を伸ばして蓬莱島周辺も見て回りましたが、海藻がほとんどなく、フジツボとイソギンチャクを見かけたくらいでした。時間的に満潮が近かったこともありますが、ドレッジやプランクトンネットを使用しての採取が向いている場所だったのかもしれません。

生物は何処に…?!

海から上がったあとは気を取り直して、広瀬先生にROVで得た映像を見せていただきました。ROVとは、Remotely Operated Vehicleの略で、水中テレビカメラロボットのことを指します。

ここで導入されているROVは、150mまで潜れるもの(本体は200m潜れますが、アームが150mまでしか耐えられない)で、半年ほどかけて、採取用のスクレイパーや、採取したものを入れるカゴを取り付けたそうです。映像の中には実際にアームを動かしているものもありましたが、なかなか目的のものを掴むのは難しいようで、ようやく掴んだナマコがカゴの中にゆっくりと落ちていく様には、ちょっとした感動を覚えました。
また、このROVを使用しての研究の中には、30年ほど発見報告のなかったサガミユビヤワコケムシ(日本の相模湾で発見された種)を見付けたりといった実績もあるそうです。

夜は、釜石市内のお店に場所を移して、懇親会を行いました。明日の一般公開へ向けた準備もお忙しい中、広瀬先生もご参加くださり、終始和やかな会になりました。
震災の跡地を見て回ったコメントとして「まだまだ時間がかかりそうだ」という声も多い中、先生始め地元に縁のある参加者からは逆に「訪ねる度に少しずつ良くなってきている、力強さを感じる、感じてほしい」という声もあり、考えさせられる一幕もありました。
採集結果に関する若干のぼやき?それは、空耳ということにいたしましょう…。


3日目は再び9時にセンター前に集合し、センターの一般公開を見学して回りました。
センターの一般公開は、震災前は1000人近い訪問があったこともあるそうですが、震災後は建物の損壊もありすぐにとはいかず、昨年ようやく再開に至ったとのことでした。海藻押し葉を作るコーナーや、標本展示コーナー、タッチプールやROVの実演コーナーなどがあり、とても興味深い催しでしたので、これからまた多くの人が訪れる場所になるのではないかと思いました。
ROVの実演では、大きなリモコンを使って潮の流れと格闘しながら(潮の力ってすごいんです!)ROVを沈め、水底の景色を堪能しました。モニターにちらりと見える影に「あれは?!」「これは?!」と一喜一憂する私たちでしたが、釣り具の一部だったり瓶のかけらだったりと、なんとも切ない状況でした。

しかし、一見子供向けかと思っていたタッチプールでは、今朝までアメフラシが生きていたという話に釘付けになったり、大槌周辺で採集したというツメタガイ、ホタテガイ、モミジガイ、オカメブンブクなどに触れることができました。
また、タッチプール担当の研究者の方から、今まで一つの種類と思われていた生物の中で種が分かれるという論文記載中の新種の話も出て、メンバーは大興奮!周囲の子供たちよりよほど食い入るようにその話を伺ったのでした。

その他、建物屋上から蓬莱島を眺めたり、広瀬先生ご自身が一枚ずつラミネート加工してくださった「おおつち海のいきもの図鑑」をいただいたり、各々センターを堪能して散会となりました。

お忙しい中お時間を割いてくださった広瀬雅人先生、遠方にも関わらずご参加くださったみなさま、ありがとうございました。


大槌で観察した生物

イシダタミ
アメリカフジツボ?
巻貝の一種
 
コモチイソギンチャク
コモチイソギンチャク
カメフジツボ
(中央に藻がついているらしい)
 
スジエボシ
スジエボシ
ハダカホンヤドカリ
 
カイメンホンヤドカリ
ホタテガイ
ツメタガイ
 
エゾイシカケガイ
トゲクリガニ
オカメブンブク
 
アカザラガイ
エゾヒトデ
オオヨツハモガニ
 
タマキビ
モミジガイ(撮影:池澤氏)
オウウヨウラク
PAGE TOP
copyright © 1998-2017 公益財団法人水産無脊椎動物研究所 All Rights Reserved.