サンゴを食べる魚は意外と多く、ブダイやチョウチョウウオ、コクテンフグやアツクチスズメダイなど、サンゴ礁を泳ぐと普通に目にする魚たちの中にもたくさんのサンゴ食者が含まれています。しかし一口に「サンゴを食べる」とは言っても、これらの魚の口の形の多様性が物語る通り、皆が同じ食べ方をするわけではありません。ブダイはそのオウムのくちばしのような歯で、ガリガリとハマサンゴなどの表面のポリプを削り取って食べます。コクテンフグも、可愛らしい見た目に反して鋭いくちばし状の歯を持っていて、サンゴを骨格ごとバリバリと噛み砕きます。それに対し、ふわふわとサンゴの間を縫うように泳ぐチョウチョウウオは、あまりサンゴをガリガリと食べるイメージがわかないかもしれません。それもそのはず、チョウチョウウオはサンゴの骨格には一切手を出さず、骨格の外に触手を伸ばしたポリプをあの上品なおちょぼ口でついばんで食べているのです。しかし一度ポリプをついばむと、その近くのポリプたちは慌てて硬い骨格の中に引っ込んでしまうため、チョウチョウウオはちがうサンゴに移動してポリプをついばんではまたちがうサンゴを求めてふわふわと泳ぎ去るということを繰り返します。あのチョウチョウウオの優雅な舞いは、食事を求めての行動だったというわけです。
また、魚以外の生物もサンゴの食べ方は様々です。巻貝は、歯舌と呼ばれる歯のような構造がびっしりと並んだ細長い舌のような器官を持っていて、この歯舌をヤスリのように使って餌を削り取って食べます。
シロレイシガイダマシもこの歯舌を上手に使ってサンゴのポリプを削り取って食べます。しかし、サンゴヤドリという巻貝のグループはこの歯舌を持っておらず、サンゴに吸着して体液をすすりとります。しばしば大発生してサンゴ礁生態系に大打撃を与えるオニヒトデも、サンゴヤドリと同様にサンゴを削りとるための歯などの器官は持っていません。代わりに、胃袋を反転させてサンゴに覆い被さって、消化液でポリプを溶かしながら食べます。