サンゴ礁の砂浜でひとすくいの砂を手にとってみると、遠目にはただの真っ白なだけに見えた砂たちの意外な多様性に気がつきます。まず目につくのが、有孔虫と呼ばれる単細胞生物の殻です。
最も有名なものは「星の砂」ことホシズナですが、他にもよく見てみると一見ホシズナのように見えるけれど突起の数がちがうもの、巻貝のようなもの、ブドウの房のようなもの、小判のようなものなど、たくさんの種類の有孔虫を見つけることができます。
有孔虫だけでも多様なのですが、もちろんそれだけではなく、小さな貝殻や貝殻の欠片、折れたウニのトゲ、エビやカニなど甲殻類の殻など、実に多様な生き物の生きた証を見つけることができるでしょう。中には、複雑に枝分かれした小さな欠片や、ピンク色のレースのようなまるで繊細なガラス細工のようなものも混ざっています。これも実は生物が作り出したもので、コケムシという群体動物の破片です。
アミコケムシ科の一種 |
また、生物の遺骸そのものではなく、削り取られたサンゴの骨格に由来する砂粒も非常に多いです。その代表が、ブダイの仲間のフンです。カンムリブダイなど一部のブダイは生きているサンゴのポリプを食べますが、多くのブダイはサンゴそのものではなくて死サンゴの上に繁茂している藻類をかじり取って食べます。いずれにせよ、スクレイパーのようにサンゴ骨格の表面ごと削り取って飲み込むので、消化されなかったサンゴの欠片は糞として排出されます。実際、海を泳いでいるとブダイがサラサラの白い糞を撒き散らしている光景をよく目にします。また、センコウカイメンというサンゴの骨格を穿って成長する海綿の仲間も、サンゴを削り取ります。ブダイのように強力な歯もない海綿が一体どうやってサンゴを削り取るのかと不思議に思われるかもしれませんが、実はセンコウカイメンはサンゴを削り取るエッチング細胞というとっておきの細胞を持っています。エッチング細胞はまず石灰質を溶かす物質を分泌し、小さな多角形の輪郭を縁どりします。そして溶けた輪郭に細長くした細胞の一部をねじ込み、ねじ込んだ部分からまた溶解物質を分泌します。この溶かす、ねじ込むというプロセスの繰り返しで溝をどんどん深くしていき、最終的には多角形の欠片が基質からポロリと剥がれ落ちるのです。海綿が削り取った欠片は特徴的な多角形の構造をしているので、サンゴ礁で砂を拾って顕微鏡でよく見ると見分けることができます。
このように、一見単調なサンゴ礁真っ白な砂浜ですが、その一粒一粒をじっくり見てみると、そのほとんどが生物に由来することに驚かされるでしょう。
(文責:椿 玲未)
参考文献
加藤眞(1999) 日本の渚 岩波書店
Rützler, K., & Rieger, G. (1973). Sponge burrowing: fine structure of Cliona
lampa penetrating calcareous substrata. Marine Biology, 21(2), 144-162.