サンゴ砂の中にたくさんの生き物が住んでいるとはいっても、ずっと沖合の方にしかいないのだろうと思われるかもしれませんが、実は海岸の波打ち際にも多くの生物が潜んでいます。特に干潮時、足を少しだけ海水に浸しながら歩くと、波打ち際でゴソゴソとうごめく多くの生き物たちと出会うことができます。そういった生き物の中で一番目を引くのは、砂の上を滑るように移動するカニ類でしょう。人間が近づくとスナガニなど多くのカニは逃亡一辺倒ですが、ミナミコメツキガニは脚を器用に使ってくるくると自分の足元の砂を掘ってその中に埋まります。ミナミコメツキガニが潜ったあたりの砂を両手ですくいあげてみると、簡単に捕まえることができます。突然砂の中からつまみ出されてオドオドと手のひらの上を歩き回るカニは可愛らしいものです。
また、波打ち際をじーっと観察すると砂が不自然に動いていることがあります。この正体は、スナホリガニやスナハゼなど体を完全に砂の中に埋めている生き物たちです。また、波に煽られてコロコロと海底を転がる角張った二枚貝を目にすることもあります。これは打ち寄せる波に踊り出て、波に乗って移動した先でまた潜るということを繰り返して移動するナミノコガイの仲間です。波打ち際の砂をタモ網などですくってみると、こういった生き物たちを捕まえることができます。
リュウキュウナミノコ | スナハゼ類が見られる砂浜 | ハマスナホリガニ(高知県土佐湾) |
また、サンゴ砂に住む生物は、こういった肉眼で見えるものばかりではありません。むしろそういった生物の多様性や数の中心は、砂の間に潜むメイオベントスと呼ばれる0.5mm以下の小さな生き物たちにあります。メイオベントスには自分で穴を掘って暮らすタイプと砂の隙間を縫うようにして動き回って暮らすタイプに分けられ、比較的砂粒のサイズが大きなサンゴ砂海岸では全てのメイオベントスが後者にあたります。そういった砂の隙間に住む生物は間隙生物と呼ばれ、多くは砂の間をすり抜けるのに適した細長い形をしています。間隙生物には非常に多様な分類群が含まれ、砂の表面についた細菌や珪藻を削り取って食べるもの、砂の間に沈む有機物をたべるもの、他の間隙生物を捕食するものなど、食性も多様です。また、ソコミジンコ類などは夜になると砂の間から泳ぎだすのですが、その際小さな魚などに食べられることによって、水中の生態系と砂の中の小さな生態系をつなぐ役割も果たしています。
コメツキガニの巣
参考文献
須田有輔、早川康博(2002) 砂浜海岸の生態学 東海大学出版会
(文責:椿 玲未)